こんにちは。
ガラスフュージングをする際の必須アイテム「離型剤」。
窯の中で高温で柔らかくなったガラスが棚板等にくっつき、固着しないようにするための物です。
粉末状の離型剤を水で溶いて、刷毛で棚板に塗るような製品もありますが、
最近は紙タイプの「セラフォーム」と呼ばれるシートを
ガラスの下に敷くのが主流となっています。
(「セラシート」「セパレートペーパー」と呼ぶこともあり)
セラフォームの欠点
セラフォーム(以下「離型紙」は「ブルズアイガラス社」が販売している物で
画期的な商品です。(個人の感想)
ハサミで大きさや形を自由に切り取れるので無駄がないし、
粉末ではないので手も汚しません。
(窯で加熱すると粉末状になる)
とてもお手軽なので、一度使ったら手放せなくなります。
ブルズアイガラス社製以外の類似製品もあるかもしれませんが、
私は見たことがありません。
しかし、このセラフォームにも欠点があります。
だいたい780度以上の温度帯まで加熱し、ガラスの流動性が上がると
粉末化したセラフォームを巻き込んでガラス表面の艶が下がるのです。
それを防ぐためには、セラフォームにスプレータイプの離型剤を吹き付けておきます。
つまり、
「離型紙に離型剤をスプレーする」というめんどくさい作業をしなくてはいけません。
しかも、このスプレータイプの離型剤、
ガラスフュージング用の製品は1缶で5,000円以上と、高価なのです。
離型剤が高価、という問題は、ガラスフュージングをする上で悩ましい問題です。
上記の2製品がガラスフュージング用離型剤として有名ですが、
私はもっぱら、「セパライドホワイト」を使用しています。
「パーフェクトプライマー」はスプレーの噴射力が強すぎ、空中にかなり舞い上がるので
無駄になる量が多い気がします。
「セパライドホワイト」は比較的、緩やかに噴射します。
安価な離型剤を探してみた
ガラスフュージングでは離型紙、離型剤スプレーは消耗品です。
焼成のたびに使う物なので、なるべく安く抑えたいです。
セラフォーム(離型紙)は類似品を見たことないのでしかたないとしても、
スプレータイプの離型剤はなんとかならないものか・・・と思い探してみました。
スプレータイプの離型剤の主成分は「ボロンナイトライド(窒化ホウ素)」という物質です。
↑これは「パーフェクトプライマー」の下部に記載してある記述です。
私が主に使っている「セパライドホワイト」には成分の記載がありませんが、
製品名から推測するに、ボロンナイトライドを使用しているとみて
ほぼ間違いないでしょう。
この物質名をキーワードに製品検索をすると、
かなりの製品がヒットします。
高温下でも安定する物質なので、
離型剤としての他、粉末潤滑剤としての用途で使われるようで、
「潤滑剤」のくくりで販売されている物も多いです。
価格は安い物で2,000円前後からあります。
各製品の説明書きを見ると、
●ボロンナイトライド100%の製品と、
●ボロンナイトライドの他にバインダーと呼ばれる成分が配合されている製品
に大別されるようです。
商品説明だけでは詳細は分からなかったのですが、
バインダーというのは「定着剤」のようなもので、
ボロンナイトライドが対象物によく密着するのを助ける役割の成分らしいです。
製品によって、有機バインダーと無機バインダーの物がありましたが、
それぞれの特徴はよく分からないままです。
乾燥時間は有機のほうが若干早そうですが定着性の優劣は不明です。
試しに購入してみた
同じボロンナイトライドが主成分の製品なら、
ガラスフュージングの離型剤として使えるかもしれません。
安い離型剤が使えるなら制作コストが下げられます。
ということで、実際に購入して比べてみました。
購入したのはボロンナイトライドを主成分とする2つの製品です。
1つは
ファインケミカルジャパンというメーカー「B・Nスプレー」という製品。
ボロンナイトライドに加えて無機バインダーを配合しています。
選んだ理由は、まず実売価格が2,000円前後と安いこと。
そして、無機バインダーであることです。
(有機より無機のほうが毒性が低そうという素人感覚です)
Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング等で購入可能です。(2022-1-17日現在)
ファインケミカルジャパン B・Nスプレー 420ml FC161
[Amazon.co.jpで探す]
[楽天市場で探す]
[Yahoo!ショッピングで探す]
2つめは、
オキツモというメーカーの「ボロンコートピュア」です。
これは、バインダーを含まずボロンナイトライド100%の製品です。
商品説明に
●密着強度は小さいが、潤滑離型性能は最大
●バインダーを使わないのでアウトガスを発生しない
とありました。
実売価格4,000円程度と、やや高価なのですが、
バインダーなしの離型剤がどんな物か確かめてみたいので購入です。
これは、Amazonで見つけられず、楽天とYahoo!ショッピングにありました。(2022-1-17現在)
実際にガラスフュージングに使い比較してみた
おなじボロンナイトライドを主成分とする離型剤なら、
ガラス用も、その他の物も離型性能は同じはず、という予想のもと、
実際のガラス焼成でそれぞれの離型剤を比較してみることにしました。
方法
比較するのは4種類。
いずれもベースに離型紙「セラフォーム」を使います。
●「セラフォーム」のみ
●「セラフォーム」にガラス用離型剤「セパライドホワイト」を吹き付け
●「セラフォーム」にボロンナイトライド100%「ボロンコートピュア」を吹きつけ
●「セラフォーム」に無機バインダー配合「B・Nスプレー」を吹きつけ
これら4種類の離型紙の上に、
黒、透明、赤、オレンジの4色のガラス板(1辺2.5cm、厚さ3mm、ブルズアイガラス)を乗せ、
電気釜で830度まで加熱し10分間キープした後に徐冷します。
(ガラスフュージングにおける加熱温度では830度辺りがほぼ上限の温度帯です)
完全に徐冷した後、それぞれのガラスの状態を比較します。
なお、同じボロンナイトライドが主成分の離型剤でも
製品により、耐熱温度の記載が800度の物と900度の物とがあります。
ウィキペディアによれば、ボロンナイトライドは
「大気中では1,000度まで安定し、
アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、鋼、ゲルマニウム、ケイ素、ホウ素、氷晶石、硝子、ハロゲン化物の融体に濡れない。」
固形潤滑剤として利用の場合は「低温から酸化気中の900度までの使用に耐える。」
と記載されています。
なので、おそらく本実験の830度という温度下でも問題ないと推測します。
窯入れ~窯出し
窯入れから830度まで上げ、室温まで冷やしました。
所要時間は24時間。
窯出し後の状態です。↓
四角形の板だったガラスは、丸いカボション(半球状)になりました。
小さな板なので、800度辺りで充分かとも思いましたが、
実験なので830度まで上げました。
結果・検証
セラフォームのみ
セラフォームだけでも溶けたガラスが棚板にくっつくことはなく、
離型剤としての役割は果たしています。
しかし、ガラスが溶けて丸まる際に、表面に離型剤を巻き込んでしまっているのが分かります。
特に赤とオレンジのガラスで巻き込みが顕著です。
色によってガラスの特性(というか粘性や硬さ)が多少違うためでしょう。
↓セラフォームから取り上げ、洗浄した後の状態です。
側面にセラフォームを巻き上げた跡が残っています。
裏面は白っぽく濁っています。黒いガラスでは特に目立ちます。
また、黒や透明よりも粘性の高いと思われる赤とオレンジは、
溶けて液体になってもセラフォームとの摩擦が大きいのでしょうか、
完全に丸くなりきれず、形が少しいびつになっています。
このことから特に780度以上の高温帯(フルフューズ)では
セラフォームのみの使用は綺麗な仕上がりにならないことを再認識しました。
ガラス表面の艶出し(ファイヤーポリッシュ)の720度以下程度であれば
セラフォームのみの使用でもさほど問題になりません。
(それでも離型スプレー使うのが無難ですが)
セラフォーム+セパライドホワイト
セラフォームにセパライドホワイトを吹き付けて焼成したガラスです。
半球状になったガラスの縁に粉がわずかに付着していますが、
下に敷いたセラフォームではなく、吹き付けた離型剤の粉末です。
↓黒いガラスだと付着しているのがよく分かります。
↓他の色のガラスにも付着しています。
しかし、このガラスを洗浄すると、
ガラスの表面が曇ったりしておらず、綺麗な艶です。
ガラス表面の白い点は埃です。
さすがはガラスフュージング専用の離型剤です。
高いだけのことはあり、ガラスに不純物が付着することなく
綺麗な状態で焼成できました。
↓裏面も綺麗です。
セラフォーム+ボロンコートピュア
ボロンナイトライド100%で、離型性が高いというボロンコートピュアですが、
結果は、下の写真の通りです。
セラフォームのみの場合と同じく、ガラスの縁に粉末が多量に付着してしまいました。
下に敷いたセラフォームはそのままの状態であることから、
ガラスに付着しているのは吹き付けた離型剤(ボロンナイトライド)です。
セパライドホワイトのように、ガラスを洗浄し付着した粉末を落とせば
綺麗になるなら問題はないのですが、洗浄後もくっきりと跡が残りました。
↓裏面
セラフォーム+B・Nスプレー
B・Nスプレーのグループの特徴として見られたのが、
下に敷いたセラフォームのひび割れです。
ガラス周囲でひび割れました。
この現象が起きたのは赤とオレンジだけで、黒と透明には起こりませんでした。
溶けたガラスの粘度の影響なのか、スプレーの吹き付け方に問題があったのかは不明です。
ただ、溶けたガラスが中央に向けて集まり、変形する際に離型紙を引っ張ったことで
ひび割れが起きたのでしょうから、「B・Nスプレーの離型性能が悪いのか?」とも考えました。
しかしながら、ガラスの縁の粉末の付着具合はごく少量です。
どういうこっちゃよく分からんな、と思い洗浄してみると、
きれい!
イヤな予感は良い方向へ裏切られ、
ガラスは驚くほど綺麗な状態でした。
↓裏面
ガラスフュージング用の「セパライドホワイト」と比べて遜色ない離型性能です。
実売2,000円程度と安価なB・Nスプレーですが、とても良い仕事をしてくれました。
敢えて言うなら、ごくごくわずかにガラスの縁に曇りがあるような気がします。
言われて注意深く見ないと気づかないレベルなので、誤差の範囲と言っても過言ではありません。
セパライドホワイトを100点とするならB・Nスプレーは95点といったところでしょうか。
並べてみてもほとんど違いは分かりません。
↓左のグループがセパライドホワイト、右がB・Nスプレーです。
セパライドホワイトの3分の1の価格で買えるB・Nスプレーですが、
ガラスフュージングに充分使える離型剤だということが分かりました。
まとめ
セラフォーム(離型紙)はとても手軽で便利ですが
ガラスを完全に溶かしてしまう780度以上の温度帯(ブルズアイガラス)では、
ガラスが不純物を巻き込んで曇ってしまいます。
それを防ぐためにセラフォームにスプレータイプの離型剤を吹きかけると
ガラスの曇りを防ぐことができます。
今回の実験では、そのスプレータイプの離型剤について、
ガラスフュージング専用の「セパライドホワイト」のほか、
同じボロンナイトライドを主成分とする2種類のスプレー式離型剤でガラス焼成を行い
離型性能を比べてみました。
セパライドホワイトを100点としたとき
セパライドホワイト・・・100点
B・Nスプレー・・・95点
ボロンコートピュア・・・10点
セラフォームのみ・・・5点
(個人の見解です)
最低限、棚板にガラスが融着しないという基礎点5点が「セラフォームのみ」の場合です。
ボロンコートピュアはガラスが曇り、使えるレベルではありませんでした。
逆にB・Nスプレーが良い仕事をしたのは、
やはり「バインダー」を配合してあるからだと思います。
「ボロンコート」にはバインダーを配合した製品もあるようなので
それらを試せば、もしかしたら良い離型剤もあるかもしれません。
しかし、価格を考慮するとB・Nスプレーがコスパが良いでしょう。
仕上がりにとことんこだわる人は、
780度以上の焼成にガラス専用離型剤、
それ以下の温度帯でB・Nスプレーと、使い分けるのも良いかもしれません。
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